≪888HIT逆キリリク?≫空飛ぶ猫目くじら様に捧げます
うにゃ!



 アカデミーでの授業を終えた後、エリーは教師ヘルミーナの部屋へ向かった。
 エリーの師であるイングリドとは何故か犬猿の仲で、しかも怪しいオーラ振り撒きまくりの、できれば近寄りがたい人物ではあるが、その部屋に行くのにはちゃんとした理由があった。
 ドアをノックし入室の許可を得てから、静かに扉を開く。
「おや、アンタか。また厄介事でも持ってきたのかい?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが……」
 半眼のオッドアイに覗きこまれ、エリーは首を振った。
 ヘルミーナは部屋の隅の長椅子に座っていて、膝には白い短毛の猫が丸くなっていた。
「その子、元気になったんですね」
 その猫は数日前にエリーが街外れで見つけた猫だ。傷を負い全身を赤くしてぐったりしている所を保護し、ヘルミーナの所に連れてきたのだった。
 何故ヘルミーナの所に来たかというと、以前病気の犬を助けてもらったことを思い出したからだ。それに近所の野良猫にミルクをやっているという噂もあり、専攻も生物学だし、何かと動物に詳しそうだということもあった。
 ヘルミーナにとっては先程言われたように「厄介事」でしかないことは明白なので、「たかが野良猫」とあしらわれるのを覚悟で連れてきたのだが、予想外にもヘルミーナは快く猫を引き受けてくれた。
 縄張り争いに敗れた猫が命を落とすことは珍しくはない。残酷だがそれが自然の摂理である。
 しかしエリーはどうしてもこの猫を助けたかったのだ。
 街外れで見つけた時、力を振り絞り警戒するようにエリー向けられたその瞳を見た瞬間──
「珍しい、深い青の瞳だね。このあたりの猫じゃないのかもしれないよ」
 ドキッとした。
 ヘルミーナの言葉は、まるでエリーの思考を読んだかのようなタイミングだ。エリーはその青に惹かれたのだから。
「いつまでそんな所に突っ立っているんだい? そこに座りなさい」
「あ、はい」
 立ち上がったヘルミーナから猫を手渡され、エリーは怖ず怖ずと猫を抱えたまま手近な椅子に座った。その目の前にティーカップが差し出される。
 膝に乗せて首筋を撫でると、猫はゴロゴロと喉を鳴らしている。
「よかった……先生、ありがとうございます」
「礼ならいらないよ。それより、飲まないのかい?」
「あ、いただきます……」
 どうもヘルミーナの部屋に来ると調子が狂う。体調が狂う、でないだけまだマシなのだろうか。
 そんなことを考えながら、エリーはカップに口をつけた。
「そうそう。その猫を調べてみたんだけどね、面白い発見があったのよ。理論上は間違いないのに、今まで何度試してもダメだったことが、その子のおかげでやっと形になったわ」
「えっ、……というか先生、このお茶……?」
「誰が“お茶”だなんて言った? アンタはこの子を連れてきてくれたから、特別に試作品を飲ませてあげたんだよ」
「……!」
 時、既に遅し。
 カップの中身をほとんど飲み干したエリーは、真っ青な顔でヘルミーナの言葉を聞いていた。


 昼というにはいささか時が過ぎ、夕暮れと呼ぶにはまだ少し早い。
 一番退屈で、一番眠くなるこの時間を、ダグラスは城門の前で欠伸をこらえながら迎えていた。
 なんとなくアカデミーの方角に目をやると、見慣れぬ人影に気づく。
「……なんだ、あのカッコ」
 アカデミーから出てきた、暗灰色ローブにすっぽりと身を隠した小柄な人物。もちろん顔はフードで隠されているが、その歩き方で何者なのかダグラスにはすぐにわかった。
 アカデミーから彼女の工房まで行くには、城門前の噴水広場を通るのが常だ。しかし、あのように姿を隠した状態では、こちらに来ずに裏道を通って帰るつもりかもしれない。
 肩を何度か回してから、ダグラスはアカデミーの方角へ足を向けた。
 ローブの人物もようやくダグラスの姿に気づいたようで、しかも彼が自分の方に向かってきていることを悟り、オロオロとその場で立ち尽くしている。
「よぉ、なにヘンなカッコしてんだ?」
 そう言って、ダグラスはフードの中を覗き込む。
 覗き込んだ先は、確かにエリーの顔があった。
 そしてその頭には、見慣れぬ突起が2つ……。
「うにゃっ、見ちゃダメうにゃ!」
 その異変にダグラスが目を丸くしていると、エリーはそそくさと更に目深にフードを被り、傍らをすり抜け一目散に走って行ってしまう。
(……”うにゃ”?)
 多少混乱しつつも、ダグラスはそのまま彼女の後を追うことにした。
 無言のまま小走りに通りを駆けていくローブ姿の少女と、それを無言で追いかける聖騎士。多少人の目を引く組み合わせだが、夕暮れ時の喧騒に紛れ誰からも声をかけられることもなく、無事(?)に工房にたどり着いた。
「……おい、もういいだろ?」
 工房に入ってからも相変わらず無言のままのエリーのフードを無造作に剥ぎとってみる。
 中から現れたのは、ふさふさとした獣の耳──先ほどのは見間違いではなかったらしい。
「うにゃ……なんで着いてきたうにゃ」
「そんな様子で歩いてたら、誰だっておかしいって思うだろーが。だいたい……」
 だいたい「うにゃ」ってなんだよ。
 そう言葉を続けようとして、失敗した。
 エリーがゆっくりと暗灰色のローブを脱いだのだ。
「……猫?」
 耳がある時点で十分おかしいとは思ったのだが。
 法衣の裾を持ち上げるようにして揺れているこの尻尾は、なんと表現すればいいだろう。
 頭の上の耳をぺしゃんと倒し、鳶色の瞳をダグラスに向ける。
「うにゃ。すぐに戻るらしいから、誰にも言わないでほしいうにゃ」
 そう言うエリーの声はいつもと変わらないのに、ただ猫のような耳と尻尾が生えているだけなのに。
 ──いや、十分いつもと違うと言っていいのか?
「先生の実験に付き合わされて、こうなってるだけうにゃ。見た目だけで、他はなんともないうにゃ。大丈夫だから……」
「いや、実験ってサラッと言うなよ。それに見た目だけっていうか、しゃべり方もおかしいんだが」
「大丈夫うにゃ。だから、ダグラスはお仕事戻ってうにゃ」
 ニッコリとほほ笑むエリーは、本人はいたっていつも通りにしているつもりなのだろうが。
 不安げに揺れる尻尾と、うつむいたままの耳が、彼女の心理を隠し切れていない。
「……ダグラス?」
 いつもなら見過ごしてしまいそうな彼女の強がりに、ダグラスはぽんと頭を叩いて答えた。
「どーせもう城門閉めて見回りすりゃ終わりだ。そしたらまた、来てやるよ」
「だから大丈夫って言ってるうにゃ」
 ぷう、と頬を膨らませてそっぽを向く。
 しかし、ダグラスのその言葉に耳をピンと立て、尻尾も先ほどまでとは緩やかで弾むような違う動きをしている。どう見ても、猫が喜んでいるようにしか見えない。
 それがまたおかしくて、ダグラスは笑った。
 何の実験かは知らないが──物騒なものだとも思うが──ひとまず。
「……それ、案外便利だな」
「便利、うにゃ?」
「あぁ、お前はわかんなくていいよ」
「うにゃ?」


は〜!
大変長らくお待たせしました! やっと「うにゃ!」っと出来ました。
どんだけ時間かけちゃってんだ、自分……。
そんなわけで、うにゃ菌に感染してしまった猫耳エリーさんです。
ヘルミーナ先生の実験目的は……恐ろしいので言えませんw
大変遅くなりましたが、こちらの作品を猫目くじら様に捧げますv
逆キリ番には驚きましたが、素敵なお題をありがとうございました♪

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