メリークリスマス

「エルフィール、貴方今年のクリスマスはどうするの?」
 アイゼルの部屋でお茶をしていたとき。アイゼルがそんなことを言った。
「どうするって・・・普通に仕事するつもりだよ?」
 私がそう言うと、アイゼルは明らかに怪訝そうな顔をした。
 アイゼル、顔に出すぎだよ・・・。
「門番は?」
「へ?」
 アイゼルは聖騎士の一人であるダグラスのことを『門番』と呼ぶ。ダグラスはそう呼ばれるのを嫌がってるみたいだけど、アイゼルはその呼び方を変えようとしない。
「門番から誘われてないのかって聞いているのよ!!」
 やや大きな声でアイゼルは叫び、テーブルを強く叩いた。
「さ、誘われてないよ。それに、ダグラスだってきっと仕事だよ」
 私の答えに、アイゼルはため息をついた。
「ったく。あの門番ときたら何やってるのかしら・・・」
「で、でも聖騎士のお仕事は大変だし、仕方ないよ」
 フォローを入れてみるが、これがなんの意味も持たないことを、私は知っている。
「仕事が終わってからでも時間はいくらでもあるでしょう?!貴方本当に門番から告白されたの??!!」
 アイゼルの言葉に、私は一気に顔を赤くした。

 そう、そうなんだ。
 私はつい先日、ダグラスから『好きだ』と言われてしまった。すごく戸惑ったけど、ダグラスに強く抱きしめられて、もう何も考えられなくなってしまった。気がつけば・・・頷いていた。
 こうして私たちは晴れて『恋人同士』というものになった。・・・・はずなんだけど。
 その関係はあまり変わらない。

「恋人がいるのにクリスマスを独りで過ごすなんて・・・ありえないわよ、エルフィール」
「そう言われても・・・」
「貴方どうせこの後シグザール城に行くんでしょう?そのときに聞けばいいじゃない。クリスマスに予定はあるのかって」
 “聞けばいいじゃない”。その言葉が、私には“聞きに行きなさい”としか聞こえない。
 頷くしかないじゃない・・・。
「わ、わかったよぉ」
 こうして私は、シグザール城にダグラスの予定を聞きに行かなくてはいけなくなってしまった。

「あ、ダ、ダグラス」
 いつもは普通に声をかけられるのに。アイゼルから言われたことがまだ頭の片隅に残っていて、その名を呼ぶのを少し躊躇ってしまった。
「よぉ。持ってきてくれたのか」
「あ、うん。これなんだけど」
 私は袋の中からダグラスに依頼されていたものを取り出した。
「サンキュ。やっぱお前に頼むのが一番だな」
 あぁ、そんな笑顔で。
 ダグラスに好きだと言われてすぐは、自分もダグラスのことが好きなのだと言う自覚があまりなかった。
 だけど今は・・・・。
「あ、あの、ダグラス!!」
「ん?なんだ?」
「えと・・・・その・・・・・」
 思い切ってクリスマスの予定を聞いてみようと思ったのに、何故か上手く言えない。
「あ、そうだ」
 私が考え込んでいる頭の上から、ダグラスの声が響いた。
「お前さ、クリスマスの夜って空いてるか?」
「え?え?クリスマス?」
 あまりに突然のことで、私は何がなんだかわからなかった。
「なんだ?クリスマスも知らないのか?お前は」
「知ってるよ、それくらい!!」
 からかわれていることくらいわかっているのだが、ついムキになって反抗してしまう。そんな私を見て、ダグラスは笑っていた。
 あぁ、やっぱりこの笑顔が好き。
──ちょっ、私は何考えてるの!!──
 ふと頭に浮かんだ考えに、私は首を振った。
「おい、大丈夫か?なんか今日変だぞ?」
 そんなことを、言われてしまう。
「だ、大丈夫!!えっと・・・クリスマス、だよね。たぶん昼間は普通に仕事してると思うんだけど・・・」
「夜は、空いてるか?」
「う、うん。たぶん」
「そうか。俺もな、昼間は仕事なんだ。だから夜しか空いてなくてな。夜、会ってくれるか?」
 真剣な、そして少しこちらを伺うような目で、ダグラスは私を見ていた。
 もちろん、彼との時間を私が断れるはずもない。
「うん。いいよ」
「じゃあ、仕事が終わったらすぐに工房に行く」
「ご飯作って待ってるね」
 私の、クリスマスの予定は決定した。

「うわぁ〜、すごいっ!!」
 ついにやってきた、クリスマス。街中はどこを見てもクリスマス一色だ。
 私は、飛翔亭に向かっていた。
「早いとこ仕事終わらせておかなきゃね。ダグラスが来るまでにご飯作っちゃわなきゃいけないし!!」
 そう言いながら私は歩く速度を速めた。
 今日が近づく度に、胸がドキドキしてどうしようもなかった。夕飯のメニューはどうしようとか、工房を何か飾りつけした方がいいのかとか。そんなことばかりを考えていた。
「こんにちわぁ〜!!」
 辿りついた飛翔亭のドアを開けると、そこもやはりクリスマス用に装飾されていた。
「やぁ、エリー。クリスマスも仕事かい?」
「あ、ルーウェンさん」
 声をかけてきたのは、ルーウェンさんだった。
 今年の夏にカスターニェに行ったときにお世話になって、そのまま一緒にザールブルグまで帰ってきた人だ。
「大変だな。どうだい?今夜ここの酒でも奢ろうか?」
 ルーウェンさんにそう言われて、私は微笑んで首を振った。
「いえ、この後予定があるので。お気持ちだけもらっておきますね♪」
「夜も仕事か?」
「違いますよ〜。ダグラスと約束があるんです」
 私がそういうと、ルーウェンさんの笑顔が消えた。
「ダグラスとって・・・まさかエリー、ダグラスと付き合って・・・・・?!」
「えっ?!あ、いや、別にそのっ!!」
 “付き合っている”とか、まだそういう言葉には慣れていなかった。だから、ついつい慌ててしまう。
「そうか・・・そうだったのか・・・・」
 ルーウェンさんはそう呟き、ふらふらとカウンターまで歩いていった。
──どうしたんだろ・・・。──
 ルーウェンさんの真意がわからず、私は首を傾げたが、すぐに自分の本来の目的を思い出してカウンターにいるディオさんの元まで小走りで近寄った。
「ディオさん、これ、この間の依頼の分です」
「あぁ、ありがとうよ。おいルーウェン、世間はクリスマスだってのになんていう顔してるんだ」
 ディオさんはカウンターでボーっとしているルーウェンさんに声をかける。
「ルーウェンさん?大丈夫ですか?」
 私が声をかけると、ルーウェンさんは力なく笑った。
「あぁ、大丈夫だ。気にしないでくれ」
 なんだか大丈夫そうには見えなかったけど、この後も色々と寄るところのあった私は、それで飛翔亭を後にした。

━━コンコン
 夕飯の準備も終わり、調合品の棚の前で在庫管理をしていると、工房のドアがノックされた。
「はぁ〜い」
 扉に近づき、ドアノブを回した。
「よぉ」
 そこには、見慣れた笑顔があった。
「いらっしゃい、ダグラス」
 一旦家に帰ってから来たんだろう。ダグラスは聖騎士の鎧はつけていなかった。
「えへへ。ダグラスの私服って、なかなか見れないよね」
 厚手のシャツとジーンズという姿のダグラスは、まだ幼さの残るそこら辺にいる普通の男性だった。鎧をつけているときとはまた違った魅力がある。
「そうか?そんなことより飯頼むぜ〜。腹減って死にそうだ」
 おなかに手を当てながら、ダグラスが言う。
「準備出来てるよ。座って!!」

「そうだ。これ」
 食事の途中。ダグラスがテーブルの上に細長い箱を出した。
「何?」
「開けてみろ」
 言われて、私は素直に箱の包みを開けていく。
「うわぁ〜〜!!」
 丁寧に包まれた箱から出てきたのは、シルバーのネックレス。
「こ、これ、私に?!」
「お前以外に誰に渡すんだよ」
 そう言ってダグラスは笑う。
「すごい!!キレイ!!」
「気に入ったか?」
 ダグラスからの質問に、私は何度も頷いた。
「ありがとう、ダグラス!!あ、私もね、用意してるんだよ!!」
 いくら私でも、クリスマスプレゼントくらい用意してる。
「ちょっと待っててね」
 そう言って私は席を立ち、プレゼントの置いてある寝室に駆け込んだ。
 そして、すぐに戻ってくる。
「はい、これ」
「なんだ?これ・・・」
 ダグラスは不思議そうにその包みを開けていく。
「あ・・・」
 私が用意したダグラスへのプレゼント。それは、深緑色のマフラー。
「ダグラスってやっぱり青いイメージがあったんだけど、青ってやっぱりどこか寒そうでしょ?でもその色ならすごくあったかそうだし、ダグラスにも似合ってると思って」
「・・・・サンキュ。これから使わせてもらうぜ」
 喜んでもらえたみたいで、よかった。
 それからの食事は、さっきよりもずっと楽しかった。

「ねぇ、ダグラス」
 もう食事もだいぶ済んだ頃、私はある話をしようと思った。
「ん?」
 ワイングラスを片手に、ダグラスが私を見る。
「私ね、昔・・・まだ小さい頃のクリスマスに、サンタさんにお願いしたものがあるの」
「なんだ?」
「太陽」
「は?」
 私の言葉に、ダグラスはそんな返事をする。まぁ、当然、かな。
「なんでなのかはもう忘れちゃったんだけど・・・・太陽がほしい!!ってお願いしたの」
「・・・・くれたのか?サンタは」
 ダグラスがそう言うと、私は頷いた。
「朝起きたら小さな箱とメモがあって・・・・メモにはね、“太陽はみんなのものだからエリーにだけあげることは出来ません。その代わり、これをプレゼントします”って書いてあった」
「何、もらったんだ?」
「えへへ〜♪これ」
 そうして私は、左胸を指差す。
「ブローチ、か?」
「うん。太陽の形してるの」
「へぇ」
 ダグラスはまじまじと私の左胸のブローチを見つめた。
「これね、お父さんがお母さんにあげたものなんだって」
「え?」
 私は左胸からブローチを外した。
「私がザールブルグに行くって決めたとき、お父さんが話してくれたの。お父さん、お母さんのことを太陽みたいな人だって思ったんだって。それで、このブローチをあげたんだって」
「なるほどな」
「私にこのブローチをくれたのはお父さんで、私にも、お母さんみたいに誰かの太陽になれますようにって。そういう願いが込められてるんだよ、このブローチには」
 ブローチを見ると、遠く離れたロブソン村にいる両親のことを思い出した。
「じゃあ、お前の両親のその願いは叶ったわけだな」
「え?」
「俺にとって・・・・お前がそうだからな」
 ダグラスの顔、なんだか赤い。
 そうだからって、何が?
 私はきょとんとしてダグラスを見ていた。するとダグラスが顔を赤くしたまま咳払いをする。
「お、俺にとってお前は・・・・・その・・・・・・太陽みたいな存在だから・・・・・・・」
「ダグラス・・・・」
「似合ってるぞ、そのブローチ」
 決して私の顔を見ないダグラスが、なんだか可愛い。私は、幸せな気分でいっぱいだった。


───メリークリスマス、ダグラス。
    あのね、あのね、
    ダグラスも・・・・・

    私にとって太陽みたいな存在なんだよ。


Fin


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そんなわけでクリスマス用SS完成〜〜〜w
なんとか間に合いました(汗)
っつうかクリスマスでしょうか、これ・・・。
なんか普通〜な感じがしないでもないですが。
ま、まぁ、クリスマスなんですよ!!!(爆)
ラブラブな二人が久しぶりに書けて嬉しかったです♪
あ、さりげにルー→エリですね。
ごめんね、ルー兄・・・。

そんでもってこの作品はフリーSSので、ご自由にお持ち帰りください。
イベントものはすべてフリーSSにするつもりなのでw

H16.12.20
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「Blue Sky」の隼吹千早様のクリスマス話を強奪してきました。
隼吹さんのダグラスは、自信満々で惚れ惚れします〜。
でも時々恋愛オンチっぷりが暴露されたろして
なんかかわゆいなぁ・・・はっ、年を取った証?!
なにげにガックシきているルー兄もキュートです。
素敵なSSをフリーにしてしまう隼吹さんの太っ腹さに乾杯!
それを年始までアップできずにいた自分に完敗orz
隼吹さん、素敵なSSをありがとうございます!

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