これから先も

「ダグラス、明後日何か用事ある?!」
 勢いよく走ってきたかと思ったら、彼女、エリーはそんなことを口にした。挨拶も、何もなしに。
「明後日だぁ?また護衛かよ」
 いつものように騎士とは思えない態度でダグラスはエリーを迎える。
「違う違う。うちで一緒にご飯食べないかと思って」
「は?なんでだよ」
 夕食に誘われたことなど、これが初めてだった。そして誘われる理由も、ダグラスには思い当たらない。
「だって、ダグラスとあたしが出会って、明後日で一年なんだよ?覚えてる?」
 そう言われてダグラスは記憶を辿ってみる。そういえば、エリーに出会ったのは一年前くらいだったか。
「お前と俺の、二人でか?」
 素朴な疑問。エリーがこの街に来て一年ということは、ダグラス以外の人間と知り合ったのもまた一年だ。だったら、ダグラス以外にも誰かを招待していてもおかしくない。
「本当はノルディスとアイゼルも呼びたかったんだけど・・・二人は寮に住んでるからあんまり遅くに出かけられないでしょ?だから今度お昼にやることにしたの。でもそれじゃあダグラスがお仕事で参加出来ないし。だから別々の方がいいかなって」
 つまり、二人だけと。そういうわけだ。
「まぁ、別にいいけどよ。タダで飯が食えるのなら」
「あはは。ダグラスらしいね。でも・・・そんなに美味しくないから、期待しないでね」
 恥ずかしそうにそう言うエリーの頭を、ダグラスは微笑んで小突いた。
「アホ。誘ってきたからには美味い飯作れよ」
「そんなぁ〜〜」
 弱気な声を出したエリーに、ダグラスはふっと笑う。
「仕方ねぇから行ってやるよ。明後日だな」
「うんっ!!じゃあ待ってるね!!」
 そしてエリーはこれから飛翔亭に行くのだと言って去っていった。
「一年、か。早いもんだな」
 初めて出会ってから一年。エリーとダグラスは実に多くの時間を共有してきた。
 仕事の都合で護衛につけなかったことはもちろん何度もある。だけど、見ていて危なっかしい彼女を放っておくことは、ダグラスには出来なかった。だから出来るだけ採取にはついていくようにした。彼女を守ることで、自分自身を鍛えられるということにも気付いた。
 だがそんな彼女も、一年の間で随分成長したものだ。調合出来るアイテムが増え、戦闘中ダグラスをサポートする場面も多々あり、怪我をしたときなんかの薬も完璧に用意されていた。だからこそ、ダグラスも徐々に思いっきり戦うことが出来るようになった。
 一年とは短いようであるが人間が成長するには十分な時間だと、ダグラスは実感していた。
「あいつも俺も、まだまだだけどな」
 そう微笑んで、ダグラスは仕事に戻った。

「エリー、俺だ」
 ドアがノックされ、そんな声が聞こえる。
 今日はダグラスとの約束の日だ。
「はぁ〜い」
 大きな声で返事をしてドアに近づく。ドアを開ければ蒼い瞳がすぐに目に入った。
「いらっしゃい、ダグラス!!」
「お、美味そうな匂いじゃないか」
 部屋の奥から漂ってくるそれは、エリーが腕によりをかけて作った料理たちの匂いだ。
「ダグラスがあんなこと言うからすっごく頑張ったんだからね?!」
 そう言ったエリーに、ダグラスは意地悪く笑う。
「よし。じゃあ味見といくか」
 そうして二人は食卓へと向かった。
 テーブルの上はきちんと準備されていて、エリーとダグラスが向かい合って座るようになっている。
「いただきます」
 二人はそのまま食事を始めた。
「どぉかなぁ?」
 不安そうにエリーはダグラスの顔を覗き込む。
「ん・・・まぁまぁだな」
「何それぇ〜〜。お世辞でも美味しいって言ってよ〜〜」
 ダグラスらしい返答に、エリーは体の力を抜く。
「お世辞で言われても上達しねぇだろ」
 厳しい評価は上達への第一歩。それがダグラスの口癖だった。エリーもそれを知っているから、ダグラスの言葉を素直に受け入れる。
「じゃあ・・・一年後には絶対もっと美味しく作ってみせるから」
 ふと呟いた言葉に、一年後の約束が結ばれたことにエリーは気付いていない。
「あぁ。楽しみにしてるぜ」
 そう言って笑ったダグラスは、また食事に戻る。
「でも思えば・・・この一年はいろんなことがあったね。振り返ればすっごく早いのに、中身の濃い一年だったなぁ〜」
 同じようにエリーも食事に戻り、そう言った。
「それだけ俺達が努力してきたってことだ。でも、まだ足りねぇ。隊長に勝つまでは・・・」
 去年の武闘大会、ダグラスは決勝まで残るもエンデルクに破れた。去年までと同じ結果。
「少しずつ、近づいてきてるんだ。だから絶対、今年こそは・・・」
 ダグラスの右手が固く握られたのを、エリーは優しく見ていた。
「あたし、ダグラスのこと応援してるからね」
「人の応援より自分のことだろ?」
 いつものように意地悪く笑うダグラスの右手は、いつの間にか開かれ、フォークを握っていた。
「もうっ!!せっかく人が応援してあげるって言ってるのに!!」
「あぁ〜、はいはい。ほら、さっさと食えよ。冷めるぞ?」
 まだダグラスの態度が気に入らないエリーは、小さく頬を膨らませたが、せっかく作った料理が冷めるのも嫌だと思い、ダグラスの言う通り食事に戻った。
「一年後こうしてここに座るときは・・・・お互い目標達成出来てるといいね」
「そうだな」
「ダグラス、やっぱりあたし、ダグラスのこと応援するから。ダグラスがエンデルク様に勝てるように、一番に応援してるからね」
 食事を続けながら、エリーは呟く。
「・・・・あぁ。じゃあ、俺もお前のこと応援しててやるよ。お前が立派な錬金術士になれるようにな」
「うん!!」

 この一年、たくさんの人にお世話になったんだ。あたしも、ダグラスも。
 たぶんこれから先も色んな人たちの力を借りるんだろうけど・・・
 あたしたちは、絶対に夢を叶える。
 それが、あたしたちに出来る最高の恩返しだと思うから。 


Fin


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ということで久々のイベントSSは「Blue Sky」1周年企画ということで。
出会って一年の二人を書いてみました。
一年だからまだお互い恋愛感情は一切ナシです。
これからサイトが2周年、3周年・・・と続いてくのと同時に、
このSSの続きを書いていきたいと思います。
せめてエリーがアカデミーを卒業する4年までサイトが続きますように(笑)

イベントSSってことでもちろんのことフリーですが。
らぶらぶ要素がないのでどうかな〜って感じですね。
とりあえずはフリーにしときます(笑)

H17.10.16
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「Blue Sky」の隼吹千早様の1周年記念フリーSSをいただいちゃいました。
「らぶらぶ要素がない」とおっしゃっていますが、とんでもない!
何気ない会話の中に、2人の絆に深い愛を感じますわ。
ダグもエリさんも気づかぬうちに、やっぱり惹かれあってるんですよ!
このお話の霜月的萌えポイントは、ダグラスの「エリー、俺だ」ですv
お互いを認め合い、高めあう関係──これぞダグエリでしょう。
隼吹さん、1周年おめでとうございます!これからも素敵な作品を楽しみにしていますv

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