人の噂も七十五日それ以上!

 天高く肥ゆる秋の空、ルーウェンは、気分良く鼻歌まじりで職人通りを歩いていた、目的のエリーの工房に着いて、さあ、扉にノックをしよう!と手を上げた所で、工房の内側からエリーの声が聞こえてきた。
「………ダグラス………」
(ん?ダグラスが来てるのか?)
「……今回は、…………断られ………」
 聞き耳を立てるつもりは、無かったものの立て続けに真剣なダグラスの声に思わず、気配を消して聞き入ってしまった。
「一生の………考えて…………」
(一生??考えるぅ??)
「後、2年……………良い返事…………」
(後、2年…良い返事?一生?………えーとぉー……2年後に一生事の良い返事?!…って、プ、プロポーズゥ〜!!!!)
「……うん…………」
(うんって…うんって、エ、エリ―――――!!!受けるのか?ダグラスのプロポーズ!いくら恋人同士でも、エリーはまだ学生…あ、だから2年後か……マイスターに進んじゃったからな)
 工房の扉の前で一人赤面して、パニクッているルーウェンをよそに工房内の声がさっきより良く聞こえてくる。
「…あのね、明日から東の台地に採取に行きたいんだけど…ダメ?宝石草のタネが欲しいんだぁ」
「……う〜ん…2、3日後じゃダメか?流石に討伐隊が出たばかりで忙しいんだ、其の頃なら何とかなる」
「うん、大丈夫!えへへ、久しぶりだぁダグラスとふたりっきりの採取、楽しみだなぁ〜」
「………言っとくが、楽できるのは10月いっぱいだけだからな、憶えとけよ!」
 浮かれるエリーに釘を刺すダグラスだが声は裏腹に楽しそうだ、などと、ぼーとルーウェンが思っていると、いきなり工房の扉が開いた。
「ルーウェン?…」
「あ″…(し、しまったぁ〜)よ、よぉ…ダグラス…」
「ルーウェン?いらっしゃい!何か依頼?」
 ダグラスの後ろから、ひょっこりと顔を覗かせるエリー。
「(くぁ〜やっぱ、可愛いぜエリー、って、いかん、いかん)其のつもりで、来たんだけどね、エリー東の台地に行くんだろ?今回はやめとくよ」
「何時から聞いてたよ、おい……」
 ダグラスが半眼で訊いてきたが素知らぬ振りして、しらと答えるルーウェンだった。
「んー『明日から東の台地に採取に行きたいんだけど』から…(流石に其の前から聞いてました、とはいえん…)内から漂う甘ったるい空気にノックの手がとまっちまってなぁ…」
 思わず赤面するダグラスとエリーに、じゃあなとひらひらと手を振って駈け去って行くルーウェンだった。


「はーっ……参った…あてられた…」
 飛翔亭のカウンターで手を口にあてて赤くなっていたルーウェンはディオから酒を受け取り一息付くと、呟いた…すると如何した?と、ディオが視線だけで問うてきた。
「エリーの所にさ、依頼しに行ったら、工房には既にダグラスが居てさぁ……」
「ダグラスと鉢合わせして、見せ付けられた訳か…運が悪かったな」
 ディオが人の悪い笑みを浮かべて答えればルーウェンが苦笑しながら頬を掻いた。
「…まぁ…なんとゆうか…出くわしちゃったんだよねぇ〜…プロポーズの場面にさ…」
「プロポーズ!!!?」
 ディオが目を丸くして問い返し、クーゲルは、コップを磨く手を止め、飛翔亭の客たちが固唾を飲んでルーウェンの言葉の続きに聞き耳を立てた。
「ほら、エリー、マイスターランクに進んで後2年は学生だろ、だから『2年後に一生の事を考えて』くれって、『良い返事を待っている』て、ダグラスの言葉にさ、エリーが『うん…』って…」
 うぉぉぉ〜飛翔亭の客たちがいろめきだつ。
「其の後、ふたりに見つかちゃってさぁ…プロポーズの場面は聞いてないって、誤魔化したんだけど、気まずくてさぁ…逃げてきたんだ…」
 あははは……と、乾いた笑いを漏らし頬を掻くルーウェンがもたらした噂は、ダグラスとエリー、当人たちが留守の間に尾鰭背鰭に広がり、そうして噂は、ふたりがザールブルクに帰って来た11月の中旬には、とんでもない事態に為っていた…。


 其の事を当人たちが知るのは、お互いの上司と恩師から教えられての事だった…。
 ダグラスはエンデルクに喚ばれて隊長室に来て乗っけに言われた言葉に硬直した。
「お前たち」
 エリーは採取から帰って来た報告にイングリド先生の部屋に顔を出し言われた言葉に頭が真っ白に為った。
「あなた方」
「「結婚する事が決定事項に為って」」「いるぞ」「いるわよ」
「「でぇぇぇ〜〜〜何でそんな事に!」」
 奇しくも別の所で聞いた同じ情報に同じ反応をしていたダグラスとエリーだった…。
 硬直したダグラスにエンデルクは淡々とふたりが留守だった間に流れた噂を説明する。
「そなたたちが採取に出かけた直後から噂がたち始めてな、エルフィールに」
 頭が真っ白で呆然としているエリーにイングリドは同情的な表情で話を続ける。
「はじめは、『結婚』ではなくて、ダグラスの」
「「プロポーズを」」「した噂だった」「受けた噂だったのよ」
「「でぇぇぇ〜〜〜何でそんな噂がたつ」」「んだよぉぉぉ〜〜〜」「のよぉぉぉ〜〜〜
 まさに大絶叫炸裂、ダグラス、エリーふたりには、まったく身に憶えの無い噂だった。
 場所は違えど赤面して混乱しているふたりに対し上司と恩師は冷静に事の起こりを説明していた。
「なんでも聖騎士のダグラス・マクレインが『2年後に一生の事を考えて』」
「『良い返事を待っている』と錬金術師のエルフィール・トラウムに言った…とゆうのが噂の発端だ」
「「それは……宮廷魔術師の打診の時の会話………」」


 一ヶ月半前のエリーの工房で交わされたお茶の席でのふたりの会話……
「エリー話が有るんだが…」
「なあに?ダグラス?」
「陛下からエリー宛に伝言を頼まれたんだ」
「伝言?」
「ああ『今回はマイスターランクに進む事で宮廷魔術師の件は断られてしまったけれど、アカデミーを卒業した暁には宮廷魔術師の道も有る事も考えて置いて欲しい』とさ」
「宮廷魔術師かぁ…イングリド先生に打診された時はびっくりしたなぁ〜」
「宮廷魔術師に為るって事は一生の事だからな良く考えて答えをだせよ!まあ後、2年有るからな考える時間は沢山有る、けど…良い返事待ってるぜ!」
「うん!」


 其の時の事を思い出し頭を抱え蒼くなるダグラスとエリー…。
「「そうだと思った」」「よ…」「わ…」
 赤くなったり蒼くなったり忙しい部下と生徒を見て上司を恩師は、ひとつ小さな息を吐いた。
「判っていると、思うけど、エルフィール…」
「「宮廷魔術師の打診の事は」」
「他言無用だ、要らぬ騒ぎを起こすだけだからな、ダグラス」
 上司と恩師に釈明の理由を封じられ項垂れて心の中で涙するふたりは、足掻きとも言えない呟きを漏らす……。
「「でも、如何して結婚まで話が飛ぶ」」「んだぁ〜」「のよぉ〜」
 最後の足掻きとも思える呟きを聞いた上司と恩師は何を今更…と呆れ顔で話を続ける。
「「去年の武闘大会であんな事しておいて、何を言って」」「要るのだ?」「いるの?」
 途端に真っ赤になって叫ぶ、ダグラスとエリー…。
「「そ、その事は、もう言わないで下さいぃぃ〜〜」」
「…私は目の前だったからな、目の遣り場に困ったものだ…」
「隊長ぉぉ〜…勘弁して下さいよぉ〜」
 シグザール城の隊長室にダグラスの情けない声が響いた…。


 去年の武闘大会での出来事…数年振りの快挙(過去2回例外が有るものの)万年2位のダグラスがエンデルクを破って初優勝を果たした。
 純粋に武術のみでエンデルクを破ったダグラスに会場は沸いた、だとゆうのに勝ったダグラスは実感が無いのか呆然としている、観客席で観ていたエリーの方が舞い上がって観客席から飛び出し、ダグラスの許へと駈け出していた。
「ダグラス!優勝だよ!優勝!!」
「……エリー……」
 呆然とエリーの名を呼び、無意識に手にしていた剣を鞘にしまい、はたと気付く、何時もは手許に剣が無く負けていたのに、今、自分の手許に剣が有る事に!。
「…………勝った…のか…?」
 じわじわと勝った事を実感すると、傍らに居たエリーが抱き付いてきた。
「そうだよ、ダグラス!おめでとう!!」
「聞えたぜ、エリーの応援……優勝出来たのもエリーのお陰だ、ありがとう…」
 抱き付いてきたエリーを抱き締め返したダグラスは、あろう事か其のままエリーに口付けたのだった…。
 勝敗が決まった時とは、また違う歓声が会場に湧き上がり、エリー同様、観客席から飛び出した、客たちはダグラスとエリーの周りに取り巻き事の成り行きを見守って(?)いて、後に散々まわりの皆に冷かし続けられた経緯があった。


「隊長が気を使って早めに仕事を切り上げさせて貰ったけど……」
「「………はぁぁ〜〜〜…………」」
 お茶の時間とゆうには、遅すぎて夕食を食べるには早すぎる、そんな時間、エリーの工房で、鎧を脱いだダグラスとエリーが溜息の大安売りをしていた…溜息しか出ないのだ…。
「だぐらすぅ〜…如何しよう…これから……」
「如何しよう……と言われても…何も策はねぇしなぁ……」
 エリーが淹れたミスティカティーのカップを持ち上げるも呑むでなく又元に戻す。
「うぅぅ…わたし、恥ずかしくて飛翔亭に行けないよぉ…依頼受けなきゃいけないのにぃぃ〜〜〜」
 両手を頬にあてて、エリーは涙眼で呟くとダグラスがポンと手を叩いた。
「!!そうだよ!飛翔亭だ!ディオとクーゲルに噂を訂正してもらおう!何ってたって噂の発祥元だ!」
「噂の発祥元?」
 ちょこんと首を傾げたエリーに、ダグラスが頷き返す。
「ああ、隊長が教えてくれた!それに、あそこに行けばルーウェンも居るだろうし………」
「何でルーウェンが出てくるの?」
 傾げてた首を、更に傾げて問うエリーに不敵に笑うダグラスが居た…。
「気が付かねぇか?エリー」
「ああ!!あの会話をした時ルーウェンが居たぁ」
「ルーウェンには一言二言いわねぇとなぁ〜気がすまねぇ……」
 ふふふっ……と不敵な笑いを浮かべるダグラスの後ろに青白く燃える炎がエリーには見えた様な気がした。


 善は急げと早速、飛翔亭に遣って来たダグラスとエリーは開口一番ディオとクーゲルに声を掛けた。
「よう、ルーウェン居るか?話が有るんだ」
 にこにこにこにこ、顔は笑っているのに眼が笑ってないダグラスに、ちょっとやそっとじゃ動じない酒場のマスターふたりがたじろいだ。
 ダグラスが怒っている…普段彼が怒る時は怒鳴り付けるのだが、其れがにこにこと笑顔で…そんなダグラスの底知れぬ迫力に流石のディオも、どもってしまった。
「あ、ああ…ルーウェンか?今日はまだ見てないな……」
 店内にルーウェンが居ないのは知っているが其れでも一応店の中を見回して、答えるとダグラスは仕方ないと矛先をディオとクーゲルに向けた。
「そうか…先にルーウェンの方から話を付け様と思ったんだが仕方ない…先に、ディオとクーゲルの方から話を付けるか!」
 にこにこにこにこ、笑顔のダグラスにディオとクーゲルは冷や汗が流れた…そんな時、飛翔亭に新たな客が遣って来た。
「あー腹減ったマスター何か食わせて!」
 ディオとクーゲルには運良かったのか悪かったのか…だが、今入って来た客には不運決ま割り無いに違いない!ダグラスが探していた当人だったのだから…。
「おっ、ルーウェン良い所に来た!探していたんだ!」
 にこにこにこにこ、笑顔のダグラスに回れ右をしたルーウェンだったが、がっしりと肩を掴まれダグラスに捕まったルーウェンは、背中に嫌な汗が流れた。
「ダ、ダグラス…騎士団がおれに何か用か?」
 明らかに引きつった表情で、判っているのに話しを逸らそうとするルーウェンに、にこやかーな態度のダグラスが両手を上げて鎧は着てない事を確認させる。
「視ての通り聖騎士の鎧は着てないぜ、騎士団の用じゃねぇ、俺、個人の用だ…まあ、ルーウェンの事だから察しは付いていると思うが…」
 にこにこにこにこ、にこやかーな態度で怒るダグラスは恐怖以外の何者でもない、だらだらと流れる冷や汗とダグラスの後ろに隠れる様に居るエリーを見てルーウェンは素直に謝った。
「ごめんなさい、おれが悪かったです…まさかあんなに噂が二転三転するとは思わなかったんだ、すみません」
 深々とダグラスとエリーに頭を下げ、まさに土下座の勢いのルーウェンに、にこやかーな表情のままのダグラスがこれまた明るーい声で言い放つ。
「悪いとは、思っているんだ…けどな…こっちは、結婚どころかプロポーズすら、してないだよ」
「「「「「え″ー―――――――」」」」」
 飛翔亭の客全員の大合唱に、笑顔のままのダグラスがうるさいと言えば、一瞬にして静かになる…。
「………えっ…一生の事って…」
 ルーウェンが蒼を通り越して白い顔で訊き返せばダグラスがにこやか―に答えた。
「エリーの進路相談してたんだよ、良く考えて決めろ、ってな」
 飛翔亭に沈黙が訪れた…………。
「で!」
 ダグラスの一言で皆が皆、身震いしピッシっと背筋を伸ばす。
「噂の訂正…してくれるよな?ルーウェン、これはディオやクーゲル、他の皆にも頼みたい事だけど…」
 にこにこにっこり笑顔付きで、ダグラスが視線を向ければ皆、ぶんぶんと思いっきり頷き、噂の訂正を約束してくれた、これで噂も少しは沈静化するだろう。
「それじゃあ、頼むぜ…エリー帰るか」
「う、うん…」
 エリーと共にダグラスが飛翔亭を後にした途端、緊張の糸が切れた様に皆一様にはぁー―――と大きく息を吐た。
「こ、怖かった………」
 ルーウェンの呟きに、声に出しては言わないけれど誰もが思った『ダグラスを本気で怒らせてはいけない…』と……。
 これで、ダグラスとエリーの結婚の噂は一時的に沈静化をみせたが、11月下旬、又もふたりがストルデル川に2週間程採取に出掛けた間に、新たな噂がたってザールブルクをにぎわせていた…。


「言っとくけどな…今回の噂は自然発生でおれの所為じゃないからな、一応おれが言っても効果は無いが否定はしてるぞ」
 エリーに振られた負け惜しみに聞える台詞になるのだが、フォローしなければ、しないで、目の前のふたりに恨まれる…特に恋敵と言われた方に…今回の事には負い目があるし…今は良い友人関係を築いているので、其れを壊したくない…とゆうか…あの、にこにこ攻撃を再び受けたくないルーウェンは、採取から帰ってきたふたりに、早々に噂の忠告をしにエリーの工房まで足を運んできていた。
 そうしてルーウェンから噂を聞いたエリーとダグラスの反応はとゆうと…。
「………応援…し難いよぉ〜……」
「………今年も優勝したいが…したく無いとゆうか……」
「「はぅ……」」
 エリーは困り顔で、ダグラスはあからさまに不貞腐れ、赤い顔をして溜息を付く…。
 結婚よりも現実味がある分、強制的に実行させられそうで、性質が悪い…噂話しとゆうのが……。


『今年の武闘大会、ダグラスが優勝したら、今年もエリーが祝福の口付けをするらしい…』


 とゆう物だった。
 

 そして、噂話の対策も出来無いまま、武闘大会当日がやって来てしまった。
「で、何でお前が、ココに居るんだ?エリー…」
 ダグラスが半眼で訊いている『ココ』とは、武闘大会出場者の控え室…。
「だって、観覧席に居ると物凄い視線のプレッシャーで、とてもじゃないけど居られなかったんだよぉ〜」
「…其れはココに居ても変わらないと思うが…」
 現に今、ダグラスとエリーは控え室で注目の的である。
「全然違うよぉ〜プレッシャーの圧力が…まだ、フラウ.シュトライトを相手にしてる方がよっぽどまし!…怖かったよぉ〜」
 少し涙眼で訴えるエリーにダグラスは、なでなでと頭を撫でた、考えてみれば控え室に居る出場者は百人強…しかも側にはダグラスが居るのに対し、観覧席には何千人と観客が居てエリーひとりなのだ、エリーがダグラスの許に逃げ込むのも仕方が無い。
 何せ、噂話と囁かれていた祝福の口付けが、新国王ブレドルフ陛下の一言で決定事項として決ってしまったのだ、ダグラスのみに……。
 エリーがダグラスに泣き付き和んでいるうちに、試合開始の時間となった、一回戦エリーは一組目、ダグラスは三十二組目で順当に勝ち進んで行けば準決勝で当たる事になる。


「さーあ、年末恒例の武闘大会が始まりしました!司会の私が実況も兼ねさせて頂きます!ちなみに、何時もは聖騎士を勤めております。

では一回戦第一試合の対戦者は、今話題の片割れ!当大会の前々々回の優勝者!魅了とたこ殴りの女王!錬金術師のエルフィール.トラウム〜と冒険者A〜奇しくも女性同士の対戦です!

では!試合開始です!

今回もエルフィール嬢は魅了とたこ殴りで勝ち残ってゆく……」

「お願い当たって!!陽と風のロンド―――!!!」

「おおおおぉぉ〜勝者!エルフィール嬢ぉ〜前々々回の時は一試合長かったが今回は早い、なんと魔法攻撃の一撃で瞬殺でした!!!では次の試合…………」

「シュベートストライク!!!」byダグラス
「…アインツェルカンプ…」byエンデルク
「陽と風のロンド―――!!!」byエリー

「……試合の回数も後三回と為りました!!とうとう準決勝だぁ〜対戦者は!聖騎士ダグラス.マクレインと錬金術師エルフィール.トラウム、ここで話題の両者対決が実現しました!!」

「降参するなら、今のうち!悪いけど手加減しないわよっ」

「その台詞そっくりそのまま返してやるぜ!」

「試合開始です!

両者共必殺技の一撃で勝ち進んで来ましたが、やはり素早さが早いダグラスが有利か?

お?!ダグラス、剣を構えたまま動かない…どうやらエルフィール嬢の魅了攻撃が効いている様だ!惚れた弱みか!顔を紅くしてエルフィール嬢に見惚れているぅ〜」

「司会!!!うるせぇ!!!」

「私に注意を向けていて良いのかダグラス?その隙にエルフィール嬢の魔法攻撃が…」

「陽と風のロンド―――!!!」

「来た―――――!!おおぉ〜ダグラス辛うじて魔法攻撃を避けたぁ――――!!

ダグラス、エルフィール嬢との距離を一気に縮めて……動かないぃ?又もエルフィール嬢に魅了されてしまった!!!

エルフィール嬢の前で剣も構えないで、ただ、立ち尽くすのみ!これでは、たこ殴りの標的にしてくれと言っているような物だぁ――――!!!

対する、エルフィール嬢……おや?エルフィール嬢も、ただ、立ち尽くすだけだぁ――!!一体如何したとゆうのでしょう?

お?ダグラスが動いた…ゆっくり歩き出しました!一体何をするつもりなのでしょう?魅了されたダグラスの行動が読めません?!!エルフィール嬢の傍まで来て………」

「…エルフィール……」

「耳許での囁き攻撃でエルフィール嬢、顔が真っ赤です!!ダグラスに魅了されて動けない――――!!!!のをいい事にエルフィール嬢を抱き締めたぁ〜」

 うおぉぉぉぉ〜〜〜会場が異様な盛り上がりを見せている中、ダグラスはエリー以外見えていなかった…剣を持つ利き手をエリーの腰に回して引き寄せて、空いた逆の手で頬を撫でる様に顔を上げさせると、其のままエリーに口付けた。

「おおぉぉ〜ダグラス、エルフィール嬢の唇を奪ったぁ〜……羨ま…ごほん…普段のダグラスからは考えられない大胆さだぁ――――――!!!

あれ程人前での口付けを嫌がっていたダグラスに!如何した心境の変化か?エルフィール嬢もダグラスに身を任せたままだぁ〜

えぇー――…………………………………

そのぉ―――…………………………………

あのぉ―――…………………………………

…長い………長いです………何時まで続けるつもりなのか……………」

 カラン…エリーの手から陽と風の杖が離れ、床に落ちた音が響く…。

「エルフィール嬢の武器である、杖が落ちた!!………勝負が付きました!!が…ダグラス………エルフィール嬢を離す気が無い様です……言い加減にしろ!ダグラス

エルフィール嬢もダグラスに縋り付いたままです……あっ、エルフィール嬢から何かキラキラ光る物が落ち………おっ、やっとダグラスがエルフィール嬢を手放しました。

ダグラスから開放されたエルフィール嬢、其のまま座り込んでしまいました……」

「……ローレライの鱗なんか装備するから……ほら、次の試合が始まる!さっさと退場するぞ!!」

 真っ赤に為りながらダグラスが足下に落ちているローレライの鱗を拾い隠し、エリーに退場を促すも、座り込んで居たエリーは、此方も真っ赤な顔で上目づかいにダグラスに小声で訴えた。

「……力が入らなくて、立てないよぉ〜……」

「うっ…しかたねぇ…」

「如何やらエルフィール嬢は立ち上がる事が出来ない模様!!ダグラスがエルフィール嬢を抱き上げての退場だぁ―――おいしい所を持ってくねぇ〜

期待を好い意味で裏っ切ってくれた!まさか、ここまで見せ付けられるとは、思わなかったぞぉぉ――――――――!!」

「言っとくが!アレはアイテム効果だ!!あんなの、俺の本意じゃねえぇぇ――――!!」

 ふたりの去り際、司会の台詞にダグラスの怒声が会場に響き渡った…。


 出場者の控え室に、今はふたりきり…気不味い雰囲気で沈黙が支配している……。
 その沈黙に耐えられなくなったのはエリーの方が先だった。
「…あの…ダグラス…如何して…その…あんな……キス……したの?」
 あんな…頭の中真っ白になって、ダグラスしか見えなくて、まわりの事なんか、如何でも良く為るような、口付け…それに、あそこで名前を囁やくなんて卑怯……それも「エリー」じゃなく「エルフィール」なんて……只でさえダグラスに、見詰められて身動き出来なかったのに…更に艶のある声で耳許に囁くなんて……赤面で少し拗ねるように言うエリーに、困惑気味にダグラスがあらぬ方に顔を向けて言い訳する。
「…だから……ローレライの鱗なんか、装備するから………お前に関して言えば、俺は他の奴らと違って見惚れて立ち尽くすレベルじゃ済まなくて…其の段階通り越して……お前の事、手に入れたいって、想いに、囚われちまったんだからよ……」
 口に手を当て真っ赤に為って告白するダグラスは、あらぬ方に顔を向けている、つられて紅い顔を更に紅くしたエリーだった。
「其れよりも……噂…又、ぶり返しちまうな……」
「そ、そうだね……」
 お互い背中に相手を感じて、気恥ずかしくて顔を合わせず会話が続く。
「噂……如何すっかな……いっその事、真実にしちまうか………」
「えっ?」
 エリーは思わず振り返り瞠目し、ダグラスは、不敵な笑みをエリーに向けている。
「お前が俺の処に嫁に来る…ってさ」
うえぇぇ―――!!!!
 エリーが驚愕して叫んだ外で、どよめく歓声が会場の方から聞こえてきた、如何やらエンデルク対ハレッシュの試合が終わった様だ、勝者は訊かなくても判る。
「そうゆう、選択肢も有るって事も、考えて置けって事!……さて!もう一度公衆の面前で祝福の口付けを受ける為に、頑張ってくるか!」
 ダグラスはエリーの唇に軽く自分の其れを合わせると、エンデルクとの決勝戦に挑む為、此れ以上紅く為り様が無い位真っ赤に為っているエリーを残し、控え室から出ていった。


 それから、二年後…アカデミーを卒業したエリーが選んだ道は……


おわり


ゲーム通りに行くとエリー、ロブソン村に帰るか、旅立っちゃうんですけどね。
霜月 ゆあ さまに捧げます。

空とぶ猫目くじら 拝



空とぶ猫目くじらさんからプレゼントをいただいちゃいました♪
いや、半ば強引に「書いて〜書いて〜」と圧力をかけたとも言うか;;
他のサイトで見た小噺にえらい衝撃を受けまして、
「猫目くじらさんの作品が見たい!」ってずぅずぅしくもお願いしてたんです。
もう、素敵です!武闘大会の盛り上がりと一緒に、私も盛り上がりましたw
空とぶ猫目くじらさん、素敵な作品をありがとうございました!

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